今回は Google が発表した「Gemini」に関する新機能のアップデートと、今後の展望やビジネスに与えるインパクトについてご紹介します。生成 AI(Gemini)のエンタープライズ活用が加速するなか、今回の機能追加がどのような意味を持つのか、私なりの考察も交えて解説していきます。
1. どんなアップデートが行われたのか?
1-1. より深い知識を活用できるカスタム Gem の構築が可能に
- Google ドライブやファイルのアップロードを参照しながらカスタム Gem を作成できる機能が追加
これまでも、Gem は独自の役割を与える“カスタマイズ バージョン”として人気でしたが、今回のアップデートで最大 10 個のファイル(Google ドライブ上のドキュメントやアップロードされたファイル)を参照させることが可能になりました。
例えばブランドガイドラインのファイルを読み込ませれば、一貫したトーンやスタイルを守ったコピーを書く AI を簡単に作成できます。また、履歴書や職務記述書を取り込んで“面接コーチ”として利用するといった形で、より実用的な支援が期待できます。
1-2. ビジネス用途に特化したプリメイド Gem
- 6 種類のビジネスユース向けプリメイド Gem がリリース
企業内でよくあるタスクを想定した AI アシスタントがあらかじめ用意される形となり、特にマーケティングや営業、採用といった業務をサポートしてくれます。たとえば以下のようなプリメイド Gem があります。- Marketing insights:顧客獲得コストの算出やデータを基に今後の施策を予測
- Sales pitch ideator:説得力のある営業資料やピッチを自動生成
- Hiring consultant:職務記述書や面接質問の作成支援
- Outreach specialist:顧客特性に合わせたメッセージのパーソナライズ
- Copy creator:ブランドガイドに沿ったコピーライティング
- Sentiment analyzer:ユーザーフィードバックの感情分析
1-3. Gemini モバイルアプリへの Workspace アカウントログインが可能に
- 外出先でも Gemini を活用しやすくなる
Android 端末において、Google Workspace のアカウントでログインできるようになります。これにより、出先での調査・アイデア出しや、手書きメモ・ホワイトボード画像を取り込んでドキュメント化するなどのマルチモーダル活用がさらに便利に。
加えて、従来どおりのエンタープライズグレードのセキュリティが担保されるので、モバイルでの利用に不安があるチームでも導入しやすいでしょう。
1-4. 管理機能の拡充とコンプライアンス面の強化
- データ保持期間の上限管理・コンプライアンス認証を拡大
管理者がニーズに合わせてデータ保持期間を柔軟に設定できるようになり、さらに HIPAA や ISO 規格(27017, 27018, 27701, 9001 など)の認証も備わります。医療機関や金融業界でも導入しやすくなるのは大きなポイントです。
これにより「AI を使いたいけれど、コンプライアンス面で問題がないか懸念がある」という企業でも、安心して導入・利用できるようになります。
2. 今後の展望とビジネスに与える影響
2-1. AI 導入のハードルが下がる
今回のアップデートで特筆すべきは、「Google ドライブやアップロードされたファイルを簡単に活用できるようになったこと」です。自社で独自のカスタム AI を構築しようとすると、多くの企業では機械学習や自然言語処理の専門知識が必要で、それが導入の大きな壁になっていました。
しかし Gemini のカスタム Gem なら、専門知識があまりなくても“使いたいドキュメントを選ぶだけ”で必要な知識ベースを AI に学習させられるのです。これによって、AI 活用の民主化がさらに進むと考えられます。
2-2. ビジネスシーンへの統合が進む
マーケティング・営業・採用など、企業活動の各領域に最適化されたプリメイド Gem が提供されたことで、各チーム単位で素早く価値を体験できるようになります。
たとえば中小企業の場合、Web マーケティングに割けるリソースが限られていますが、Marketing insights や Copy creator を即座に利用すれば、専門コンサルに頼らずとも一定レベルの分析とコンテンツ作成を自前で行うことができるでしょう。
大企業においても、多くの従業員が各自の業務で気軽に AI を活用し始めることで、生産性やアウトプットの質を一気に高められる可能性があります。
2-3. セキュリティやコンプライアンスへの対応も加速
エンタープライズ向けの AI サービスが普及するにあたり、セキュリティやコンプライアンスの整備は必須要件です。今回、HIPAA などの規格に対応できる点は特に医療・介護領域での導入に大きく寄与すると考えられます。
企業・組織全体で発生する機微なデータも「Google Workspace」の基準で保護されることで、“データを預けて AI を活用する”ことの安心感はさらに高まるでしょう。
3. 活用シーンと考えられる事例
- ブランドガイドラインの一貫管理
- 広報やマーケティング担当が「ブランドガイドライン Gem」を作り、各種コンテンツ制作時に表現ブレをチェック。
- SNS 投稿や広告コピーに一貫性が保たれ、担当者の負担も削減。
- 営業・顧客対応の効率化
- 「Outreach specialist」を使い、顧客の業種・属性に合わせた提案書を自動生成。
- 「Sentiment analyzer」でレビューや問い合わせを分析し、ネガティブ要因を早期発見。
- 採用活動の最適化
- 「Hiring consultant」で職務記述書や面接質問を体系的に設計し、人事担当の業務負荷を低減。
- カスタム Gem で自社のポジションに特化した面接官役を作り、模擬面接の効率化も可能。
- 現場でのモバイル利用
- フィールドセールスやサポートスタッフが移動中にモバイルアプリから Gemini を利用し、顧客情報を瞬時に確認・分析。
- ホワイトボードに描いた図を写真で撮影し、そのままプレゼン資料に変換。
4. 今後の注目ポイント
4-1. “AI 実装”のハードルを限りなく下げる一手
今回のアップデートは、大企業だけでなく中小規模の事業者や個人ビジネスにとっても、大きな追い風になると思います。特別な AI の知識やシステム構築が不要で、既存のドキュメントを活用して即戦力となる AI アシスタントを作れるからです。
4-2. モバイルファーストのメリット拡大
Android 版モバイルアプリでの Gemini ログイン対応は、外出先や現場でこそ AI のメリットを享受したいユーザーにとって大きな利点です。
加えて、撮影した画像の解析やドキュメント化など、モバイルならではのユースケースが活性化するはずです。
4-3. 知的財産やコンテンツの取り扱いについて
一方で、企業の知的財産や顧客情報をどこまで AI に取り込むかは引き続き慎重に検討すべきポイントです。Google Workspace の範囲とはいえ、機密情報をアップロードしていいのか、アクセス権限の管理はどうするのかなど、社内ガイドラインの策定が必要になります。
4-4. 今後さらに期待したい点
- マルチモーダルのさらなる強化:文字情報だけでなく、音声や動画などへの対応が進むと、業務領域が一段と広がるでしょう。
- 国・言語別の最適化:まだ一部言語のみ対応とのことですが、日本語を含む多言語対応が進めば、グローバル企業でも活用しやすくなるはずです。
- 社内ナレッジの蓄積と活用:今後は社内 Wiki やプロジェクト管理ツールともスムーズに連携し、社内のナレッジを即時に回答できるアシスタントへと進化する可能性があります。
5. まとめ
Google Workspace 向けの Gemini がさらにパワーアップすることで、AI をビジネスの現場に取り入れるハードルは大幅に下がり、ワークフローの生産性は高まると予想できます。
今回の機能拡充がもたらす最大のメリットは「自社固有のファイルや知識を活用して、簡単かつ安全に AI を業務へ組み込める」という点です。セキュリティ面でも新たなコンプライアンス認証を獲得しており、今後は幅広い業種・部門で採用が進むでしょう。
もし「AI を使った業務改善に興味はあるけれど、導入へのハードルが高い」と感じていた方や、「機密情報を扱うから不安」という企業の方は、今回のアップデートを機に一度検討してみるのも良いかもしれません。
すでに提供がスタートしている機能もあり、60日間無料トライアルも用意されているようです。ぜひこの機会に試してみてはいかがでしょうか。
これからもAIの動向や最新テクノロジーに関する情報を発信していきますので、引き続き当ブログをチェックしていただけると嬉しいです。それではまた!